第7回:運動学習の3段階|認知期・連合期・自動化期で指導はどう変える?
2026.10.05
新しい動きを覚えるとき、最初から自然に身体を動かせることはほとんどありません。
まず見本を見る。
実際にやってみる。
思ったようにできない。
もう一度試す。
少しずつ動きを修正していく。
そして最終的には、身体の細かな動きを一つひとつ考えなくても、その動作ができるようになっていきます。
このようなスキル習得の過程を、
「認知期」「連合期」「自動化期」
という3つの段階で説明したものが、フィッツとポズナーによる運動学習の3段階モデルです。
このモデルは、運動スキルを習得していく過程を理解する代表的な考え方の一つで、
認知期 → 連合期 → 自動化期
という流れで学習が進んでいくと考えます。
RHYTHM NATIONでは、このモデルを理解するうえで、もう一つ重要な視点があると考えています。
それが、
「選手が今どの段階にいるのかによって、指導者の関わり方も変える」
ということです。
新しい動きを始めたばかりの選手に、身体の細かな使い方を大量に伝える。
反対に、ある程度動作ができるようになっているのに、間違った動きを何度も繰り返させる。
すでに動きを習得している選手にも、ずっと同じ練習を続けさせる。
これらは、必ずしもその選手の学習段階に合った指導とは限りません。
今回は、認知期・連合期・自動化期という3つの段階から、
選手がどのように運動を学び、そのとき指導者がどのように関わればいいのか
を考えていきます。
運動学習は「できた・できない」だけではない
子どもの運動を見ていると、
「できた」
「できなかった」
という結果に目が向きがちです。
しかし、同じように動作ができているように見えても、
- 一つひとつ考えながら動いている
- 試行錯誤しながら動きを調整している
- ほとんど意識せず自然に動いている
では、運動の習得状態は異なります。
つまり、
「できるかどうか」だけではなく、「どのようにできているのか」
を見る必要があります。
そして、その段階によって必要な指導も変わります。
第1段階「認知期」|まずは動きを知る

新しい運動に初めて取り組む段階が、
認知期(Cognitive Stage)
です。
この段階では、まだ選手自身が
「何をすればいいのか」
「どんな動きなのか」
を十分に理解できていません。
たとえば初めて見るステップなら、
足の順番が分からない。
左右が逆になる。
腕と脚を一緒に動かせない。
タイミングがずれる。
こうしたことはごく自然に起こります。
そこでRHYTHM NATIONでは、まず
完成した動きを見せること
を大切にしています。
言葉だけで説明する前に、まず見本を見てもらいます。
そのうえで、動きを理解するために必要な情報を伝えます。
ただし、最初からすべてを細かく説明するわけではありません。
まず伝えるのは「動きの核」
認知期に伝える情報として大切にしているのが、
その運動の核となる部分
です。
RHYTHM NATIONのリズムトレーニングでは、その中心になることが多いのが、
グルーヴ
です。
たとえば、
「膝を何度曲げる」
「骨盤をこの角度にする」
「腕をここまで上げる」
と身体の部位を一つひとつ説明する前に、
どのようなリズムで身体全体が動いているのか
を伝えます。
アップなのか。
ダウンなのか。
足踏みをしながらなのか。
左右へ移動するグルーヴなのか。
まず、この土台となる反復運動を共有します。
そのうえで、
「このグルーヴの中に、この動きを入れてみよう」
と伝えます。
細かな身体操作を一つひとつ説明するよりも、
まず動き全体のイメージを持ってもらう
ことを重視しています。
「教えない」のではなく「教えすぎない」
ここで誤解したくないのが、
認知期では教えない方がいい
ということではありません。
「自分で気づくことが大切だから、何も教えず失敗させる」
という考え方を取っているわけでもありません。
学習研究では、完全に学習者へ任せる発見学習よりも、
- 必要な情報を提示する
- 適切なフィードバックを与える
- 問いかける
- 考えるための足場を用意する
といったガイダンスを伴う学習の方が有効になることが示されています。
つまり、
「教えること」と「自分で気づくこと」は対立するものではありません。
むしろ、指導者から与えられた情報を材料にして、
自分で試し、
自分の動きと見本を比較し、
違いに気づき、
もう一度試す。
この循環をつくることが重要だと考えています。
情報を与えることで、探索できる範囲も広がる
そもそも、知らないものについて自分で気づくことには限界があります。
たとえば子どもが、
「こんな身体の動かし方がある」
ということ自体を知らなければ、その動きを自分から試すことは難しいでしょう。
だからこそ、
見本を見せる。
新しい動きを紹介する。
違うリズムを経験させる。
新しいステップを教える。
こうした指導者からの働きかけには大きな意味があります。
新しい情報を与えることで、
「こんな動きもあるのか」
という選択肢が増えます。
その選択肢が増えたうえで、本人に探索してもらう。
RHYTHM NATIONでは、
教えることで可能性を狭めるのではなく、教えることで探索できる世界を広げる
ことも指導者の重要な役割だと考えています。
すぐに答えを与えず「余白」を残す
一方で、
見本と違う動きをした瞬間に、
「足が違う」
「手はもっと上」
「膝を曲げて」
「タイミングが遅い」
と次々に修正点を伝えてしまうと、選手自身が自分の動きを認識する時間がなくなります。
そこで認知期では、
必要な情報を伝えたあとは、まず本人に試してもらう
ことを大切にします。
見本を見る。
やってみる。
何か違う。
もう一度見る。
再びやってみる。
少し変える。
こうした時間をつくります。
これは、
自分の動きと理想の動きとの差を自分自身で認識する練習
でもあります。
指導者が答えを持っていても、すぐにすべてを伝えない。
本人が考えるための余白を残す。
これが、認知期では特に重要だと考えています。
「失敗させること」が目的ではない
同じように、
失敗そのものを経験させることが目的でもありません。
「失敗した方が成長する」
「失敗させないと自分で考えなくなる」
といった考え方を耳にすることがあります。
しかし、学習研究では、失敗を多く経験すればするほど学習効果が高くなる、という単純な関係が示されているわけではありません。
運動学習には、初期のエラーをできるだけ少なくして成功しやすい環境をつくる「エラーレス学習」という考え方もあります。
2026年のシステマティックレビューでは、エラーレス学習がすべての運動学習で一貫して優れているわけではありませんでしたが、子どもの運動の正確性では有利になる可能性も報告されています。研究の確実性については、まだ十分高いとは言えません。
つまり、
失敗は多ければ多いほど良いわけではありません。
成功できる課題の中で試行錯誤する
RHYTHM NATIONでは、
「できない課題を何度も失敗させる」
ことよりも、
少し頑張れば成功できる課題の中で、自分自身で試行錯誤する
ことを大切にしています。
難しすぎる課題では、
何が違うのか。
どう直せばいいのか。
本人自身が判断できないことがあります。
その場合は、
動きを簡単にする。
テンポを落とす。
一部分だけ行う。
見本をもう一度見せる。
ヒントを一つ加える。
といった調整を行います。
そこで成功体験をつくりながら、
「さっきと何が違った?」
「今の方が近かった?」
と、自分自身の動きにも意識を向けてもらいます。
目指しているのは、
失敗を避けることでも、失敗を積極的に経験させることでもありません。
成功と失敗を比較しながら、自分自身で違いを感じられる状態をつくることです。
認知期の指導者の役割
ここまでを整理すると、認知期では次のような関わりを大切にしています。
① まず完成した見本を見せる
何を目指すのかを視覚的に示します。
② 動きの核となる情報を伝える
すべてを説明するのではなく、その動きを成立させる中心的なポイントを伝えます。
RHYTHM NATIONでは、特にグルーヴを重視します。
③ 成功できる難易度をつくる
難しすぎる場合は、テンポや動作を調整します。
④ 本人に実際に試してもらう
説明を続けるより、まず身体を動かしてもらいます。
⑤ 必要以上にすぐ答えを与えない
見本と自分の動きを比較する時間をつくります。
⑥ 必要ならヒントを追加する
完全に任せるのではなく、学習が進まないときには情報を加えます。
つまり認知期における指導者は、
「何も教えない人」でも、「すべてを教える人」でもありません。
学習に必要な情報を与えながら、
本人が自分で気づくための余白を調整する人
だと考えています。
第2段階「連合期」|具体的なアドバイスで方向を整える

動きの大枠が分かってくると、
連合期(Associative Stage)
へ進みます。
この段階では、
「何をすればいいのか分からない」
という状態から、
「やりたい動きは分かっているが、まだうまくできない」
という状態へ変わっています。
認知期と比べると、大きな間違いは減ってきます。
一方で、
タイミングが少しずれる。
身体の一部に力が入る。
上半身と下半身がうまく連動しない。
動きが小さい。
左右で差がある。
といった細かな問題が見えるようになります。
ここからは、認知期よりも
具体的なアドバイス
を増やしていきます。
連合期では「方向修正」が重要になる
連合期で特に気をつけたいのが、
望ましくない動きをそのまま繰り返さないこと
です。
反復すれば、自動的に正しい動きになるとは限りません。
自分なりに試行錯誤した結果、違った動作パターンを繰り返しているのであれば、指導者が方向を修正する必要があります。
たとえば、
「リズムは合っているけど、動きが少し小さい」
「足は合っているので、次は上半身も連動させよう」
「今はスピードよりも、まずグルーヴを維持しよう」
といったように、
その選手がすでにできていることを土台にして、次の修正点を伝えます。
認知期では情報量を抑えて全体像を捉えてもらう。
連合期では、より具体的な情報を加え、少しずつ精度を高めていく。
ここが、指導方法の大きな変化です。
間違った動きを自動化させない
連合期に具体的な修正を加える大きな理由の一つが、
望ましくない動きの自動化を防ぐこと
です。
動作を繰り返していくと、次第に考えなくても実行できるようになります。
これは運動学習に必要なことですが、
何を自動化するか
が重要です。
望ましい動作なら、それをどんどん安定させればいい。
しかし、明らかに違った身体の使い方を何度も反復しているのであれば、
「自分で気づくまで待つ」
だけではなく、指導者が情報を与えて方向を変えます。
つまり、
自分で気づく時間を与えることと、必要なときに教えることの両方が必要
なのです。
第3段階「自動化期」|考えなくてもできる状態へ

練習を繰り返し、動作が安定すると、
自動化期(Autonomous Stage)
へ進みます。
この段階では、
「次に右足」
「次に左足」
と考えなくても、自然に動作を実行できるようになります。
動作そのものへ使う注意が減るため、
周囲を見る。
相手を見る。
次の状況を判断する。
別の課題に反応する。
といったことへ意識を向けやすくなります。
スポーツでは、この状態が非常に重要です。
試合中に、自分の身体の動かし方だけを考えているわけにはいかないからです。
自動化しているからといって、必ずしも正しいとは限らない
ただし、
自動化=正しい動き
ではありません。
望ましくない身体の使い方でも、繰り返していれば考えずにできるようになる可能性があります。
もし間違った形で自動化しているのであれば、そこでは改めて指導が必要です。
一度自動化した動きを変更するため、
「今はこの部分を意識してみよう」
と動作へ意識を戻し、新しい身体の使い方を学び直します。
その意味でも、
連合期で適切に方向修正しておくこと
が重要になります。
正しく自動化できたら、次の学習へ進む
一方で、望ましい動きが自動化されているのであれば、
同じことを延々と繰り返す必要はありません。
次の課題を加えます。
たとえば、
より大きく動く。
より速く動く。
テンポを変える。
移動しながら行う。
方向を変える。
違う動きを追加する。
複数の動きを組み合わせる。
こうして条件を変えていきます。
それまで自動的にできていた動きを土台にして、さらに新しいことを学習します。
自動化は「ゴール」であり「次のスタート」
ここで面白いのは、
自動化期まで進めば学習が終わるわけではない
ということです。
たとえば、
足踏みしながらアップのグルーヴを取ることが自動化したとします。
そこへ新しいステップを入れると、
足踏みやアップは自動化されていますが、
新しいステップについては再び
認知期
になります。
そのステップを練習すると、
連合期へ進み、
やがて自動化します。
さらに別の動きを加える。
また新しい学習が始まる。
つまり、
認知期 → 連合期 → 自動化期
は、一度だけ経験するものではありません。
新しい課題に挑戦するたびに、小さなサイクルとして何度も繰り返されます。
3段階で変わる指導者の役割
RHYTHM NATIONでは、それぞれの段階で指導者の役割を次のように考えています。
認知期
学習を始めるための環境をつくる
- 見本を示す
- 動きの核を伝える
- 成功できる難易度へ調整する
- 本人に実践させる
- 自分で比較・探索する余白を残す
- 必要ならヒントを加える
キーワードは、
「示す・待つ・支える」
です。
連合期
望ましい方向へ動きを整える
- 具体的なアドバイスを増やす
- 本人の感覚と実際の動きの違いを伝える
- タイミングや連動を修正する
- 望ましくない動きの定着を防ぐ
- 必要に応じて課題を調整する
キーワードは、
「確認する・修正する・整える」
です。
自動化期
身についた動きをさらに発展させる
- 自動化した動きに問題がないか確認する
- 必要なら一度動作へ意識を戻して修正する
- 正しく自動化できていれば難易度を上げる
- 大きさ、速さ、方向、テンポを変える
- 新しい課題や動作を組み合わせる
キーワードは、
「発展させる・変化させる・次へ進める」
です。
同じ練習でも、全員が同じ段階とは限らない
この考え方で重要なのは、
同じ練習をしている選手全員が、同じ学習段階にいるとは限らない
ということです。
ある選手は認知期。
ある選手は連合期。
ある選手はすでに自動化期。
ということがあります。
だから同じ練習をしていても、
一人にはまず見本だけを見せる。
一人には具体的な修正点を伝える。
一人にはテンポを上げる。
といった違いが生まれます。
指導とは、
全員に同じ説明をすることではなく、その選手が今どの段階にいるのかを見極めること
でもあります。
指導者の目的は「正解を教えること」だけではない
指導者には経験があります。
答えもある程度分かっています。
だからこそ、できていない選手を見ると、
すぐに正解を伝えたくなります。
しかし、
その瞬間に正しい動きができること
だけが指導の目的ではありません。
見本を見る。
教えてもらう。
やってみる。
違いに気づく。
考える。
もう一度試す。
必要なアドバイスを受ける。
修正する。
そして、考えなくてもできるようになる。
この一連の過程を経験することで、
選手自身が
「どうすれば新しい動きを身につけられるのか」
を学んでいきます。
RHYTHM NATIONが大切にしているのは、
単にできる動きを増やすことだけではありません。
新しい運動に出会ったとき、自分自身で学習を進められる力を育てること。
これが、私たちが考える「運動学習能力」の重要な一部です。
まとめ|大切なのは「教える・教えない」ではなく、いつ・何を・どこまで教えるか
フィッツとポズナーの3段階モデルでは、スキル習得を、
認知期 → 連合期 → 自動化期
という過程で捉えます。
RHYTHM NATIONでは、それぞれの段階に合わせて指導方法を変えています。
認知期では、
見本と必要な情報を与えたうえで、本人が試し、気づく余白を残す。
連合期では、
より具体的なアドバイスを加え、望ましくない動きが自動化されないよう方向を整える。
自動化期では、
身についた動きを確認し、必要なら修正し、問題なければさらに速く・大きく・複雑な課題へ発展させる。
重要なのは、
「教えた方がいいのか」「教えない方がいいのか」という二択ではありません。
その選手が今どの段階にいるのか。
どこまで理解しているのか。
自分自身で試行錯誤できる状態なのか。
どの情報を与えれば、次の学習へ進めるのか。
それを見ながら、
教える量とタイミングを調整すること
が、指導者に求められる役割だと考えています。
そして最終的に目指したいのは、
指導者から答えを教えてもらわなければ動けない選手ではなく、必要な情報を受け取りながら、自分自身でも運動を学び続けられる選手
です。
次回は、その運動学習の入り口となる、
「運動を見る力」と「真似する力」
について考えます。
同じ見本を見ているのに、すぐに動きを再現できる子と、なかなか同じように動けない子がいるのはなぜなのか。
「見る」から「身体を動かす」までに何が起きているのかを掘り下げていきます。